漫画はざっくりというと、ネーム→下書き→ペン入れ(清書)という作業を経て完成します。このなかで漫画の面白さを最も左右するのがネームです。
もしかしたらネームという用語を知らない人もいるかもしれませんので、一応解説しておきますと、ネームはラフな絵で漫画のコマ割りやセリフ、キャラの配置を描いたものです。大きな役割はコマ割りを決めること。1つのコマにどんな情報を入れ、何を入れないのかを決めるのです。漫画の設計図とも呼ばれますね。
ネーム制作は、頭の中にストーリーが浮かんで、それを漫画にしていくためには避けては通れません。
漫画家になっても、このネームの段階で打合せを重ね、修正を重ねます。今回は、描いてみると意外と難しいネームの描き方を一から解説していきたいと思います!
この記事の目次
ストーリーを作る
まずはストーリーを考えます。この作業はたくさんの方法があるのと、本稿の本流ではありませんので、ストーリーはある程度考えてある前提で解説していきますね。ストーリーの作り方について困っていたらこちらで確認してみてください。
また、ネームの作業をスムーズにするために、まずプロットにしてみることをおすすめします。※プロットとは、文章で書いた短いストーリーのことです。詳しくはこちらで確認してみてください。プロットでストーリーを練って、さらにネームを練ってゆく2段階に作業するとロスが少ないです。
ネームに取り掛かる
ストーリーができたら、ネームの作業に移ってゆきます。ネームを描く紙は何でも構いません。自由帳のような無地のノートに書く人もいますし、落書き帳に書く人もいます。また、コピー用紙に書く人もいます。最近ではネームもPCやスマホで書く人も多いかもしれません。要するに何でもいいのです。
アナログの場合は、紙に鉛筆などで書いていきます。コマを割り、セリフを入れて、絵をいれます。絵は大雑把でかまいません。↓このくらいでも全く問題ありません。まずは自分が理解できればよく、人に見せる場合は後でネームの清書をすればいいです。
編集者に見せるときなど、人に見せるときはさすがに上記ではキャラの判別もできないので、もう少し書き込みます。
最初からここまで書き込んでしまうと、スピードが遅くなってしまいますし、書き直しが大変になります。
ネームはそもそも何度も書き直すものです。最初は30ページ描くのに、100ページは捨てるくらいのつもりで描くといいでしょう。もちろん、慣れてくればそこまでロスすることはなくなります。 なので、前途のように自分用にネームを書き、人に見せる段階になったときに「ネームの清書」をするつもりで進行するのがおすすめなのです!
ペース配分
ネームの役割の一つは、ストーリーをページに分けてゆくことです。自分のストーリーが何ページで収まるのかを確認するには、1ページにどのくらいの量が入るかを知る必要があります。ただ、これは試行錯誤して経験してゆくしかありません。
慣れてくると、大体30ページくらいだなとわかるようになります。序盤は5ページくらいで、終盤は少しページ数が余るから、クライマックスを10ページくらいかけようという風にイメージすることができるようになります。
最初はペース配分は考えずにどんどんネームにしていくのがおすすめ。既定のページ数に収まらなければ、あとで削ればよいのです。ページ配分や流れを確認するために、ざっくりとしたネームネームのネームを作るのもおすすめ。A4用紙なら4つ折りにしてざっくりと小さく書いてみましょう。
何を省略するか決める
ここで、漫画独特のコマという表現方法について少し考えてみましょう。ネームを作っていく、コマを割ってゆく際にベースとなる考えが少し深まると思います。
漫画は映像とは異なりキャラクターの動きの一瞬をとらえて絵にして、次の絵までの動作は省略します。
例えば「キャラクターが歩いていて、物に気付いて、拾う」シーンを考えてみましょう。
現実世界にキャラクターがいたとしたら、下記のような動き方をしますね。
この動作すべてにコマを当てて書いていったら、何ページあっても足りません。そこで、どこをコマとして切り取るかを考え、どのようにページを割るのかを考えます。
下記に色々なコマ割りを作ってみました。コマ数も、どの動作を切り取るかも様々です。カメラアングルも違います。俯瞰(上からのアングル)するのか、あおる(下からのアングル)のか、寄り(アップ)なのか引き(遠くからのカット)なのか正面なのか右なのか左なのかによって、印象が異なるのがわかると思います。※通常の紙の漫画と同じく右上から左下に進みます。
①こちらは歩いている人のバストアップ→拾う手元→何だろう?の動作のバストアップという構成です。拾う動作を省略し、手元だけで表現しているのが特徴的です。
②歩いている人は引きで、歩いている状況がわかりやすいです。顔をアップにして、何かに気付いたことを強調。拾う動作も入れて丁寧に描写しています。
③最初の歩いているだけのシーンは省略。その代わり、歩ている状況と、物に気づいたことを同時に表現しています。また、物をアップにして、読者の注目を集めています。拾うシーンは省略。
④カメラアングルに凝った演出。あおりで歩いている描写、俯瞰で拾う動作、物のアップ、顔のアップと細かくカメラを動かしています。
⑤実験的なコマ割りです。全て引きの横からのカメラアングルです。舞台を見ているような印象を与え、客観性を高めています。火の鳥羽衣編のような感じ。
⑥物から入って物の印象を高めます。歩く動作、気づく動作は省略。そして拾う動作は省略。
どのコマ割りも特徴があり、どれが正解ということはありません。何を読者に見せていくのかを考え、選択しましょう。コマ割りの本当に基本的なことはこちらでも書いていますので、確認してみてください。
セリフのやり取りを考える
キャラクター同士のセリフのやり取りも漫画では重要なシーンです。セリフのやり取りを何コマで表現するかについても考えなくてはいけません。例えば、下記のようなやり取りを考えてみましょう。
主人公:「この中に犯人は・・・いない」
一同:「えー?!」
たったこれだけのやり取りですが、無限ともいえるコマ割りが考えられます。2つの例を挙げてみます。1コマにどのセリフが入っているかに注目してみてください。
①このコマ割りだと、主人公のカッコよさが際立ちます。
主人公のセリフは2コマに分かれてます。
1コマ目「この中に犯人は」
2コマ目「いない」「えー?!」
②主人公にタメを作りつつ、主人公以外でもタメをつくって、「いない」という結論を印象付けます。
セリフは3つに分かれてます。
1コマ目「この中に」
2コマ目「犯人は」
3コマ目「いない」「えー?!」
③このコマ割りだと、主人公以外のキャラクターの反応が際立ちます。
セリフは3つに分かれてます。
1コマ目「犯人はこの中にいない」
2コマ目 セリフなし
3コマ目「えー?!」
コマのサイズ
コマのサイズが大きければ大きいほど読者が注目しますので、重要なコマほど大きく、そうでないコマは小さくするのが基本です。ページの中で、どのコマを強調したいのかを考え、他のコマとの調整の中で、サイズを決めてゆきましょう。
最初は、上手くメリハリがつけられないかもしれません。そのようなときは、均等に割ったコマでネームを作成してみましょう。漫画のコマはだいたい1ページに5、6コマが基本ですので、ページを6分割して(紙ならば折って)そこに書いてみてください。そして後から強調するコマを大きく調整すると良いです。
ページの中での展開を考える
慣れてきたら、1ページの中で上手に展開し、次のページを見たくなるようにすることを考えます。雑誌などの紙の媒体の場合は、見開きの2ページも意識します。ページをめくってもらうために、ページの最後のコマ「引きのコマ」で次につながるようにしてゆきます。
ネームを頑張る
以上のようなことを考えながらネームを作っていきます。いきなり全部の項目を意識して完璧に仕上げるのは難しいかもしれません。とにかく書いてゆくことでしかうまくなりませんので、作ったものを読み返して、納得がゆくまで書き直しましょう。最初からこだわりすぎるといつまでたってもネームが終わりませんので、まず終わらせる、それから修正するという意識で書いていきましょう! ネームの前にまだストーリーができていない、という方はこちらをご参考に。
ということで、頑張って自分の作品を作ってゆきましょう!