漫画を描いていたり、描こうと思っている人が、よく耳にする専門用語に『ネーム』があります。ネームって何でしょう?もちろん『名前』という意味ではありませんよ!
ネームって何?どんなもの?
このネーム、漫画を作るうえで非常に重要な役割を果たします。これがないとどんな漫画も作ることができないし、漫画の面白さの大半を決めるもの、と言っても過言ではないでしょう。
まずは実物を見てみてください。
ドーン!
え、何この落書き?
まってください。落書きではありません。そして筆者が絵が下手なのではありません。これがネームなのです。
落書き、という言い方はネームという用語が持つニュアンスの一部を的確にとらえて表現しているので、あながち間違ってはいません。この落書きに、どのような役割があるか、そして、どのように描くかを解説していきましょう。
漫画の制作過程から考える
まずは漫画の制作過程を見てみましょう。漫画を作る順番はこのようになります。
1、ストーリーを考える
2、プロットを作成する。
3、ネームを書く。
4、原稿に下書きをする。
5、原稿をペン入れする。
6、原稿に仕上げをする。
1と2はまとめてやってしまう人も多いかもしれません。最近はデジタル環境の人も多いかと思いますが、アナログでもデジタルでも、この工程はほとんど変わらないです。工程についてもっと知りたい人はこちら。
この中で聞き慣れない用語は、プロットとネームではないでしょうか。プロットは簡単に言うとあらすじです。(あらすじと言ってもただのあらすじではありません。もしプロットについてもっと詳しく知りたいと思ったらこちらも見てください。)
ネームは簡単に言うと、漫画の下書きの前に書く下書きです。何で下書きを2回も作るのか、不思議に思うかもしれません。
ちなみにネームは書くとは言いません。切ると言います。編集の人にも「ネーム切ってきて」などといわれます。ネームを切るというとプロっぽいですよ。
ネームを切る目的
ネームを切る最大の目的はコマ割りです。コマ割りとは、原稿用紙を縦横斜めに割る作業です。これはさすがに漫画を描こうという人にはわかるかと思います。(でももっと詳しく知りたい人はこちらに。)キャラをどのように配置して、何をどのコマでしゃべらせていくのか、そのページにはどの部分までを入れるのか、入るのかということを検討します。
そんなの下書きでいいじゃん、と思うかもしれません。下書きだってコマを割って、ストーリーの展開を描いていきます。↓ちなみにこれが下書き。
結論からういうと、下書きではダメです。
下書きではダメな理由はただ一つ。ネームは何度も書き直すものだからです。
あなたは下書きを1枚書くのに何分かかりますか?普通、数十分から数時間かかると思います。これに対し、ネームは書く作業だけを考えればものの数分で書くことができます。何度も書き直すので、素早く書ける形態で書く必要があるのです。素早く書ければ極論を言うと定規を使う必要もないし、棒人間だけでも成立します。とはいえ、あまり簡素にしすぎて自分であとで見直してわからなくなっても困るので、最低限、下記の点を注意して書けばよいです。
・字が読める
・誰が誰だかわかる(顔を書く時間も短縮するために、顔に名前を書いておいてもいいくらいです。)
・何が起きているかわかる(文字で補足してもいいくらいです。)
といったことを満たしていればよく、もちろん紙も何でもOKです。ノートに書く人もいますし、コピー用紙に書く人もいます。落書き帖みたいなものに描く人もいます。子どもの時から慣れている方法にしている人も多いかと思います。漫画を描こうというような人は小さいときから何らかの作品を書いているものだと思いますが、その時の感覚をずっと忘れない効果があるのだと思います。さすがにとでぐちゃぐちゃになってしまう可能性があるのでアレですが、究極言えば、チラシの裏でもいいくらいです。
ちなみにどの位書き直しが行われるか、私の場合をここに書いておきましょう。私はまだ未熟者なので笑、何度もネームを書きなおしますね。1ページが出来上がるのに10枚くらい捨てます。つまり、36ページを描こうと思うと360枚くらいは使う計算になります。環境に悪いですね笑
プロも書いているの?
このネーム、初心者だから書くものではありません。プロも当然のように書きます。むしろプロには絶対必要とも言えます。
プロになると、ネームを元にここを直そう、これを加えよう、という話を編集の人とします。ここで書き直しが必要になるので、やはり書き直しやすい形態=ネームにしておく必要があるのです。そこから先の作画はよほどのことがなければ書き直したりはしません。
個人で制作する場合も、良い漫画を描くためにはネームから作ったほうがいいでしょう。もちろん、頭の中にストーリー運びもコマ割りも完璧にできている人にはネームは必要ないかもしれません。漫画の中の話ですが、バクマン。の天才漫画家新妻エイジくんは最初そうでしたね。漫画の神様手塚治虫先生もかいていなかったエピソードが多いです。
ネームが面白ければ、当然漫画も面白くなります。面白いネームを作りましょう。
ネーム制作の実例とコツ
最初の工程、「ストーリーを考える」という部分から「ネーム」に行くにはかなりの飛躍があります。ストーリーは頭の中にあったり、あるいは文章に書き起こす人もいるでしょう。結構適当なメモを頼りにしている人も多いと思います。とにかく普通はストーリーは何らかのテキストでできていることが多く、それに絵をつけ、コマに割っていくのですから、結構な飛躍です。ネームから下書き、ペン入れの流れはなんとなく一続きという感じがしますが、ストーリーからネームは飛躍しており、ここに生みの苦しみが発生します。
実際にテキストがどのようにコマに割られていくか、例を見てみましょう。
まずこれがストーリーの元、プロットです。(プロットって何?という方はこちら)スマホで書いてもいいですし、もちろん手書きでもOK。プロットは基本的には人に見せるものではないので、自分がわかればいいのです。
主人公とA、B、Cが一緒の部屋にいる。
主人公:犯人は・・・この中に・・・いない!
一同:ええー!?
さて、このプロットをネーム化してみましょう。まずは人に見せる用に少しきれいに描いたネームを見てください。
ネームは普通、ここまで書き込む必要はありません。最低限、誰が何を言っているのかわかればいいのです。特に自分だけが見るときはもっと簡単でOKです。ネームの目的はコマ割りなどを決めることにあるので、何度も書き直す前提で作業したほうが良いからです。ただし、編集者に見せるとき、編集部でいろいろな人が見るときなどは書き込む必要があります。その場合も、自分用ネームが完成してから見せる用ネームを作ればいいので、最初はラフなネームで何度も書き直した方が効率が良いのです。
ということで次はラフなバージョンを見てみましょう。
①「この中にいない」と「ええー?!」を同じコマにしてテンポ良く見せています。
だいぶラフになりました。自分用にはこれで充分。お絵描きが好きで、書き込まないとイメージがつかないというような人の場合はストレスにならない程度に簡素に描ければよいと思います。
さて、ここからが大事な作業です。ネームはコマ割りやセリフ回しを決める大事な作業です。この一見単純な場面でも、何通りものコマ割りが可能です。実際に見てみましょう。
②「犯人は」「この中に」「いない」を3つの吹き出しに分け、途中に主人公以外の登場人物の緊迫した顔を入れています。
③「犯人は、この中にいない」を1コマでまとめて、他の登場人物の表情でタメを作り、最後の「ええー?!」を強調しています。
3通りのコマ割りを見ていただきましたが、どれも印象が異なると思います。たったこれだけのシーンでも、引いたり(遠くからのアングル)、寄ったり(近くからのアングル)、コマを細かく割ったり、あまり割らないようにする、など、いくらでもコマの割方があります。無限の選択肢からどれを選択するかはあなた次第です。選択するということは、他を捨てるということです。作者としてはどのコマ割りもよいところがあり、捨てるのはとても苦しい作業です。でも1つに絞らなければいけません。
選択するときは、「そのコマは何を表現しようとしているのか」を意識するとよいでしょう。
主人公をかっこよく見せるのであれば、最初のコマ割り、他のキャラクターの反応を見せたいのでしたら2番目のコマ割り、「犯人がこの中にいない」ということにニュアンスをつけたいのなら3番目のコマ割りですね。
このように、そのシーンに与えられた役割を最も発揮できるコマ割りを選択すべきです。
判断に迷ったら、自分が最も気持ちよく感じるコマ割りを採用してください。これが漫画のオリジナリティになります。
ネームのは漫画そのもの
ということで、ネームを切る際にはなるべく簡単な形式で納得するまで書き直すことをおすすめします。
もし、ネームの状態で投稿したり、編集など人に見せる場合は、上記の最低限の部分は守らなくてはなりませんが、個人用だったら自分がわかれば何でもOKです。もちろん、自分のテンションを上げたりイメージを強くするために部分的に書き込むのは全然OKです。
ネームは漫画の設計図とか、下書きの下書きなどという風に表現してきましたが、コマ割りこそ漫画そのものです。ネームを活用して、面白い漫画を描きましょうね。
ということで、ネームのことがわかったら、漫画の作業も見てみてくださいね。