「リアリティ」という用語は、「リアリティのある描写」「作品にはリアリティが必要」という風に使われます。辞書を引いてみると「現実感」「真実性」などと書かれていますが、一方で「リアル」という似た言葉もあります。一体リアリティとは何で、リアルとは何が違うのでしょう? 今回は2つの言葉の違いと意味について解説していきましょう。なお、リアリティの概念は、創作をする方にとっても重要なので、漫画や小説を書く人はこの際はっきりさせておきましょう。
この記事の目次
まずはリアルについて
リアリティについて説明する前に、まずはリアルについて知っておく必要があります。
リアルの意味の1つは「現実」です。例を見てみてください。
リアルと、バーチャル。
このように言ったとき、このリアルは「現実」という意味で使われています。この使い方の時、リアルという言葉は「現実」という言葉にそのまま置き換えることができます。
現実と、バーチャル。
置き換えても意味は変わりませんね。
他にも使い方があります。例を見てください。
あの絵はとてもリアルだ。
このように言ったとき、リアルだ、とは絵の描写が現実と同じ、もしくは限りなく近いという意味です。※この時「リアルだ」は形容動詞です。
他にも、そのままに、という意味もあります。
リアルにやばい。
そのまんまマジヤバイと言うことですね。
だいたいこの3つの使い方がリアルという言葉の使い方で、簡単にまとめるとリアル=現実ということになります。
次にリアリティについて
さて、リアルがわかったところでリアリティについて解説しましょう。リアリティは日本語でも「現実感」「真実性」という字があてられているように、「~感」とか「~性」と言う言葉がついており「現実」とは異なります。
「~感」や「~性」をとても分かりやすく訳すと「~っぽい」ということになります。
「現実」に「感」を合わせると「現実っぽい」となります。リアリティとは「現実っぽい」ということなのです。つまり
あの絵にはリアリティがある
と言えば、現実っぽさがある、現実と見紛うばかり、という意味になるのです。
なるほど、あ~これですっきりした! と思ったかもしれませんが、この言葉はそれほど簡単ではありません。先程のリアルの使い方でこのようなものがありました。
あの絵はリアルだ
意味は「現実と限りなく近い」でした。一方「あの絵にはリアリティがある」の意味は「あの絵は現実っぽい」でした。
この2つの違いは何でしょうか?
リアルとリアリティの違い
1、品詞の違い
この2つの違いの1つは品詞の違いです。品詞は中学校の国語で習いますね。説明するので忘れてしまっていても大丈夫です。
「リアリティ」は「ある・ない」という言い方をします。「リアリティ」は名詞です。名詞とは、山、海、川、などと同じく名前です。
上記の「現実」と置き換えられる場合「リアル」は名詞です。ですが、「リアルだ」「リアルに」という時「リアリティ」は形容動詞です。
リアル=名詞
リアルだ=形容動詞(未然形:リアルだろう 連用形:リアルだった、リアルでない、リアルになる 終止形:リアルだ 連体形:リアルなとき 仮定形:リアルならば 命令形:-なし-
リアリティ=名詞
という違いがあるのです。
と、文法の違いは理解が簡単ですが、本質的な違いは別のところにあります。
2、基準の位置の違い
ここに絵があります。(正確にはCGですが、そこは本筋ではないので絵だと思ってください。)ドラゴンが書いてあって迫力があります。
この絵を見たときに、私たちはどのように表現するでしょうか。「リアルな絵だ」というのではないでしょうか? ドラゴンは現実社会に存在しないのに、リアル=現実っぽいとはどういうことなのでしょうか。
リアルの「基準」は、現実世界です。
この絵のドラゴンの質感は現実に近いものです。無論、ドラゴンは現実社会には存在しないけど、存在したとしたらこんな感じだろう、と私たちは感じます。それは、ワニや亀、イグアナなど現実の生物の質感を知っており、この絵のドラゴンもそれに近いから、現実っぽいと思うのです。現実世界に比べて、限りなく近い要素があるから、「現実に近い」という表現になるのです。
一方、この絵を見て、私たちはリアリティがあるとはあまり言いません。むしろこのような動物は存在しないのだから、リアリティがないと言ってしまうくらいです。
なぜでしょうか?
それは、リアリティの「基準」が、「その世界の」基準だからです。難しく言うと「対象とする世界の基準」とでも言えるでしょうか。
ドラゴンの絵にリアリティがあるとは言われないのは、基準がどこにあるかわからないからです。ドラゴンがいる世界があったとして、ほんとうにこのような質感なのか、私たちが知らないからなのです。先程は現実のワニや亀、イグアナを基準にして「似ている」という判断をして「リアル」だと感じましたが、ドラゴンのいる世界を基準にしたときこの絵が「似ている」のかどうか、ドラゴンのいる世界に住んでいない私たちには判断ができないのです。だから、リアリティがあるとはあまり言わないのです。
創作とリアリティライン
ここまでがリアルとリアリティの意味の説明です。ここからの話は、ストーリーを作る方、漫画、映画、舞台、小説、ドラマなど創作をする方に向けて解説してゆきます。創作をしない方でも、もっと理解を深めたい方はぜひ読んでみてください。
創作においてリアリティがあるということは、非常に重要です。リアリティがあれば読者や視聴者の納得、共感を得ることができるからです。
リアリティに必要なのはその世界の基準でしたね。創作分野において「その世界の基準」が非常に重要な要素になることにお気づきでしょうか。つまり読者にリアリティを感じてもらうためには、作者は「その世界」の基準を明示しなければならないのです。
世界の基準、これをリアリティラインといいます。
異世界ファンタジーやSFではリアリティラインが重要になります。
SFの例を見てみましょう。
「スターウォーズ」ではライトセーバーやビーム兵器、巨大なスペースシップが登場します。そのくらいのレベルにリアリティラインが設定されているので、惑星を破壊する力を持つデススターが登場しても納得がいきます。一方で同じ宇宙を舞台にした「インターステラー」では相対性理論により、ブラックホールの近くでは時間の流れが遅くなったりして、かなり現実に近い位置にリアリティラインが設定されています。とはいえ、現実の科学では土星まで有人航行できませんから、現実よりも少しだけ高い位置にリアリティラインが設定されていることがわかります。かといってインターステラーにデススターが登場したらおかしなことになります。
ファンタジーではどうでしょうか?
「ロードオブザリング」には魔法もエルフもドワーフも登場しますが、日本のアニメやゲームのような魔法は登場しません。歩けばお腹もすきます。この世界にアニメやゲームのような魔法が登場したら、拍子抜けしてしまいます。フロドは苦労して、徒歩で滅びの山を目指す必要はなくなるでしょう。
現実社会が舞台の場合でもリアリティラインは重要です。現実が舞台だとしても、完全に同じなのか、少しだけ違うのかを設定しておく必要があります。誰もが知っていそうな作品を例にとると「名探偵コナン」は現実が舞台ですが、大人を子供にしてしまう薬が登場したり、時計型の麻酔銃、エンジン付きのスケボーが出てきたりします。一方で犯罪トリックは比較的現実的なレベルに設定されています。現実より少しだけ大げさなことが許される、それが名探偵コナンのリアリティラインなのです。恋愛ドラマなどは現実と同じ程度に設定されていることが多いですが、
読者、視聴者は、無意識にこのリアリティラインを基準に作品を鑑賞します。リアリティラインを越えたものが登場したときに、そりゃないだろう、と感じて冷めてしまうのです。このようにリアリティラインを設定し、それを守ることは捜索では非常に重要です。
その世界の基準を設けなくてもリアリティが出せる例外
現実が舞台でない場合でも、「その世界の基準」を設定しなくてもリアリティを出せるものが1つだけあります。それはキャラクターの心の動きです。
キャラクターの心だけは、どのような世界観であっても実は読者も作者も、無意識のうちに無条件で現実世界が基準になっています。もちろん、その世界の文化によって多少の現実との違いはあって良いのですが、いかなる物語のキャラクターであっても、怒られれば腹がたったり落ち込んだり、褒められればうれしく、悲しいことがあれば涙が出ます。これは現実世界の心の動きとなんら変わりません。心の動きはどのような世界感でも共通なので、創作において非常に重要なのです。心の動きを中心とすれば、物語に納得感や共感を作り出すことができます。※心の動きを中心とした物語の組み立て方をもっと知りたい方はこちらを参考してみてください。
まとめ
ということで、まとめますと、
「リアル」は名詞と形容動詞があり、現実世界基準で、現実にらしいことを言う
「リアリティ」は名詞で、その世界基準で、その世界の現実らしいことを言う
ということになります。創作する方はぜひその意味の違いと物語における重要性を理解していただければと思います。