作品におけるオマージュの意味と使い方【作り手側用】
オマージュという技術は、作品を作る上で必須のものではないのですが、使い方を知っておいて損はありません。
オマージュは作品に奥行きを加えることができるだけでなく、読者・視聴者(以下、受け手とまとめます)と作者の距離感を圧倒的に詰めることができます。
しかし、「パクリ」と近いの概念なので上手くやらないと失敗して「パクリ作品だ」という批判を受けてしまうことになります。
使い方を理解して、上手に使いましょう。
オマージュとは
まずはオマージュについて確認しましょう。オマージュとは、
他の作品の要素(以下元ネタと呼びましょう)を、自分の作品に取り入れること
です。これだけだとパクリと同じなのですが、違うのは、
元ネタを受け手が知っているのが前提、もしくは知られてもいい前提
だということです。
パクリは元ネタを知られてしまったら、盗用しているのがバレてしまいます。なので隠そうとしますね。それに対して、オマージュは知られてもいいのです。「俺はこの作品(元ネタ)好きなんだ、君もきっと好きだよね?」か「俺はこの作品(元ネタ)好きなんだ、君は知らない? おすすめだよ」という作者と受け手の高度な遊びなのです。
パクリとの違いについては詳しくはこちらで解説していますので、興味があれば見てみてください。
オマージュの構造と抽象化
ここからは作り手側に必要な考え方を解説してゆきます。
作り手は、他人の作品で感動すると、その面白さを自分も受け手に提供したいと考えるときがありますね。そして、その作品の面白さを自分の作品に取り入れたいと思います。感性の鋭い作り手であればあるほどそう思うと思いますし、それ自体は悪いことでは全くありません。
問題は、どのレベルで面白さを取り入れるかです。
面白さの要素にはレベルがあります。
例えば、童話の「金太郎」が面白いと思ったとします。
面白いと思う部分は人それぞれ様々ですが、例えば下記のような要素があったとします。
1「赤い前掛けにおかっぱがかっこいい」
2「子どもが熊を倒すのがかっこいい」
3「まさかりがかっこいい」
これらをそのまま作品に取り込むこともできます。すると「まさかりをかついだ高校生キャラ」になったり、「熊を倒す小学生キャラ」になったりします。
もう一つは、抽象度を高める方法です。これらの抽象度を高めると、以下のようになります。
4「赤い衣装とクラシックな髪型がかっこいい」
5「小さい者が大きい者を倒すがかっこいい」
6「アナログな大きな武器がかっこいい」
すると、今度は「大きなカマをかついだ女子高生キャラ」とか「赤い衣装のおかっぱ頭のお嬢様キャラ」になったりします。
1、2、3は、見る人が見れば元ネタがわかってしまいます。
4、5、6は、受け手には元ネタがわからない可能性が高いでしょう。
どのような取り入れ方をしてもいいのですが、オマージュやパクリと言われるのは大抵、1、2、3、のレベルで取り入れた場合です。
オマージュは元ネタを知っている受け手には理解できた方がいいからです。
※逆に、パクリと誤認されないようにしたいならば、4、5、6、のレベルで取り入れる必要があります。ここで言う「レベル」について、詳しく知りたい人はこちらも見てみてください。
主・従の関係を守る
次は、自分の作品で注意すべき点を説明します。
作品というものは、色々な面白さの要素が混ざり合っています。映画や漫画、小説で言えばキャラやストーリー、設定、見せ方、デザインなど、沢山の要素があります。
オマージュを使って作品を作る時に注意しなければならないのは、
作品の中心となる面白さを元ネタから借りてきてはいけない
ということです。作品の各要素には作品に占める重要度があります。主・従の関係で言うと、主の部分、これは自分で作らなければなりません。元ネタの面白さを取り入れるならば、従の部分にしなければなりません。
例えば、スターウォーズには黒澤明映画のオマージュが沢山あります。例えば最後のシーンの構図は黒澤明の「隠し砦の三悪人」そっくりです。ジョージ・ルーカスは黒澤明のファンなので、リスペクトを込めてオマージュしているのです。
このシーンは、映画の中では従にあたりますね。このシーンが違う構図だったとしても、無かったとしても、面白さにそこまでの影響はありませんから、従なのです。スターウォーズの主の面白さは宇宙戦争のビジュアルであったり、若者たちの冒険であったりします。この部分を無くしたり、変更すると、全く違う作品になってしまいます。
主と従はこのような関係になっています。他の作品の面白さを取り入れるときは、主の部分を避けて従の部分として要素を取り入れることが必要になります。
もし、主の部分に元ネタの面白さを取り入れたいのならば、上記の4、5、6、のように抽象化してから取り入れましょう。例えば、5「小さい者が大きい者を倒すがかっこいい」を作品に取り入れれば、初期のドラゴンボールのように小さな子どもの悟空が大きな敵を倒すような作品にもなります。少年漫画は大抵このような要素がありますね。
まとめ
ということで、オマージュの使い方が理解できたのではないでしょうか?
ゼロから面白さを「発明する」のはなかなか至難の業です。ルールを守って、他の作品の面白さを取り込むことで、オマージュだけでなく、作品自体を上手に作っていくことができるようになります。このように言うと、なにか悪いことをしているような気になりますよね。でも、これは反則でも、汚い事でも、悪いことでもありません。意識していないだけで、実はだれでも自然とやっている作業なのです。
作り手には作品を作るときの基準があります。子どものころから今までに触れてきた作品が消化され抽象化されて、それが自分の中の面白さの基準になっているのです。その基準で作品を作っているのですから、大元を辿っていけば他人の作品に行き当たるのです。なので、正しく取り込む作業は自然な作業なのです。
ということで、上手に抽象化とオマージュを使って、作品を充実させていきましょう。