世界一おもしろく演繹法・帰納法を理解する!使いこなす方法
演繹法と、帰納法という言葉があります。ちなみに『えんえきほう』と『きのうほう』と読みます。
なんだか難しそうですね。
本来は論理的思考の方法を指す言葉なのですが、ストーリー作りと関連して語られることも多い言葉です。そこで、演繹法と帰納法について、詳しくわかりやすく(そしておもしろく)解説し、どのようにストーリー作りに活用するかを解説していきます。
この記事の目次
そもそもどんな概念なの?
「Aであるから、Bである」というように、ある前提から結論を導く作業を論理の展開といったりしますが、そのための2つの方法が、演繹法と帰納法です。
1つ1つ確認していきましょう。
1、演繹法
演繹法は「Aである」という前提から、「Bである」という結論を導く方法です。
「Aである」は誰がどう見てもそうだという前提です。「Bである」はそこから自然に(論理的に)導かれる結論です。
「Aである」:人間はおならをする。
「Bである」:アイドルもおならをする。
どうも例が下品ですみませんが、わかりやすいのでこの例を採用です。これが演繹法です。「Aである」が正しければ、「Bである」は絶対に正しくなります。(もちろん、「Aである」が間違っている場合、「Bである」は間違いだということになります。)
演繹法の例として最もイメージしやすいのは数学です。
「Aである」:1+1は2である。
「Bである」:2+1は3である。
数学はベースの考え方自体が演繹法でできています。当たり前のことから結論が当たり前に導かれるのです。
いわゆる三段論法も、演繹法です。
「Aである(前提1)」:人間はおならをする。
「Aである(前提2)」:アイドルは人間だ。
「Bである」:アイドルもおならをする。
これを悪用するとこんなことにもなります。
「Aである(前提1)」:「俺のものは俺のもの」
「Aである(前提2)」:「お前は俺のしもべ」
「Bである」:「お前のものも俺のもの」
論理的には正しいですが、倫理的に前提2が間違っていますね。人間は理屈だけではうまくいかないのです。
2、帰納法
では、帰納法はどうでしょう。
帰納法は経験からの推論です。
いくつかの結果があり、そこから結論を導くものです。
「リンゴは落ちる。」
「本も落ちる。」
「スプーンも落ちる。」
という結果があります。
そこから導かれる結論は、
「地球には引力がある」
です。
演繹法は、前提が正しければ必ず結果が正しくなりました。
しかし、帰納法の場合、結果は必ずしも正しいわけではありません。そうなる可能性がとても高い、ということです。
どういうことかというと
「ジャイアンは昨日僕を殴った」
「ジャイアンは去年も僕を殴った」
結論「ジャイアンは今日も僕を殴る。もうジャイアンは毎日僕を殴る。助けてよドラえもん。」
確率的には殴られる可能性が非常に高そうに思えますが、今日に限って機嫌がよい場合もあるので、結論は間違っている可能性もあります。
これが、「結果が必ずしも正しいわけではない」といった理由です。
だからといって帰納法が全く役に立たないものと考えるのは間違いです。長年の経験に基づく「経験則」は帰納法だし、多くのデータから推察する「統計学」も帰納法です。
ペストが蔓延した昔のヨーロッパでは、今のように医療技術も科学も未熟だったので病の原因は解明できませんでした。
でも、経験的にどうも死んだ人やネズミが危ないということがわかってきて、それらを遠ざけました。
このような考え方は帰納法だし、統計学です。本当の原因がわからなくても、現状に対応することができるのです。
では、おさらいです。この例は帰納法、演繹法どちらでしょう?
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例1
「Aさんが風邪をひいたとき生姜湯を飲んで治った」
「Bさんが風邪をひいたとき生姜湯を飲んで治った」
↓
「生姜湯は風邪に効く」
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例2
「風邪のウイルスには生姜に含まれる何とかという成分が効く」
↓
「生姜湯は風邪に効く」
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例1は帰納法、2は演繹法です。
1はAさんも治ったり、Bさんも治った。たぶんCさんにも効きそうだ。つまりこれはみんなに効くのではないかという考え方なので帰納法です。
2は生姜の成分が効くことから、自然に生姜を使った生姜湯が風邪に効くと導けるので演繹法ですね。
ストーリーを作るためにも役立つ
さて、帰納法・演繹法の一般的な意味が理解できたと思いますが、ストーリー作りに関しても、演繹法と帰納法が登場します。
一体、ストーリー作りの何の役に立つのでしょうか。
よく語られるストーリー版帰納法・演繹法については、私の知る限り、手塚治虫大先生が発信源ではないかと思っております。
手塚治虫大先生は著書本の中で簡潔に書いています。
帰納法は「かんたんに言って、お話を最初から行きあたりばったりに考えていくこと」
演繹法は「最後のオチを考えて、それに合わせてお話をつくることである。」
出典 手塚治虫 マンガの描き方―似顔絵から長編まで
大体の方の理解はそのようなものになっているように思います。つまり、単に『原因から考えて結果を導く、結果から原因を導く』という意味で使われており、本来の演繹法・帰納法とは厳密には違うのがわかるかと思います。一般的な演繹法、帰納法を理解したみなさんに、ちょっと単純化しすぎているように思えるかもしれません。
とはいえ、この『ストーリー版帰納法・演繹法』は知っておいて損はない、スタンダードな考え方です。手塚大先生が言っているのだから間違いありません。
しかも、当サイトでは2つの使い方を紹介します。さっそく解説していきましょう。
1、発想方法、思考方法として使う
演繹法、帰納法には2つの使い道があります。1つ目の使い方は発想方法として使うことです。
演繹法:最初のシーンや、部分的なアイデアから広げて全体を作っていく
帰納法:最後のシーンや、全体のイメージから逆算して個別のアイデアを作っていく
ストーリーはどこから考え始めてもかまいませんが、最初に思いつく部分によって考え方が異なってきます。
「学園ものでコミカルな雰囲気で」「誰々の、〇〇のような壮大な世界観で」・・・といった全体のイメージが先行する場合もあれば、「人の心をあやつる能力があるキャラがいて・・・」、「水を使ったトリックで・・・」「天才的な頭脳を持つ根暗な主人公が」といった部分的なアイデアが先に思いつく場合もあります。
演繹法的に考えてストーリーを作る
キャラクターや、能力などの部分的なアイデアが先に浮かんだ時に有効なのが演繹法です。そのアイデアを展開していくことでストーリーを作ることができます。
例を挙げましょう。
「人の名前を書き込むと、その人が死んでしまうノート」
このようなアイデアが生まれたとします。
そこから思考を発展させます。そのノートは誰が作ったのだろう、誰が手にするのだろう、そんなアイテムが世の中に存在したら世界はどうなるだろう、警察はどうするだろう。人々の反応はどうだ。
このように考えを展開させ、ストーリーを作ります。
これは「デスノート」ですね。作者が本当にその順番で話を考えたかはわかりませんが、1アイデアから展開させて話を作っていっているように思います。キラやライトといったキャラの印象も強い作品ですが、私の記憶では読み切りの時は平凡な小学生が主人公で、ノートが中心の話でした。
このような作り方の時は、発想をいかに展開させるかが作者の腕の見せ所です。
帰納法的に考えてストーリーを作る
逆に帰納法は全体から部分を考えてゆきます。
「SFの要素を取り入れた西遊記みたいな作品が書きたい。」
から発想していった有名な漫画がありますね。
西遊記だから主人公はサル。天竺にお経を取りにいくのでは読者に共感されないから主人公たちの動機が何か必要だ。西遊記だから世界観は中国的な感じ。もちろんSFだからマシーンも登場する、あれも描きたい、これも描きたい。
最終的に『SF西遊記』に仕上げるためにパーツを考えていきます。
これは「ドラゴンボール」です。もちろんこちらも本当にこの順で考えたかは不明ですが、初期の設定資料を見ると、西遊記が先にあるのが想像できます。主人公の姿がサルそのものだったり、豚のキャラがサブ主人公として準備されていたり、西遊記+西部劇みたいな姿で書かれていたりして、悟空やドラゴンボールが先ではなかったように思います。
その他にも「海賊をテーマに作りたい」「異世界から現実世界に戻るときの別れを表現したい」「主人公の若さゆえの葛藤が書きたい」、「笑って泣けて感動できる物語が作りたい」「最後には人間は死滅し、主人公だけが生き残る」といった全体のイメージやテーマ・オチが先にあり、それを表現するためには何が必要かと考えるのが帰納法的な発想方法です。
この考え方は演繹法だな、とか帰納法だなと思いながら考える必要はありませんが、行き詰ったときにヒントにするとよいでしょう。
2、構成のために活用する
もう一つの使い方は構成への活用です。構成とは、ストーリーの中の場面の順番の決め方です。
例えば「出発の場面」があり、「旅の途中の場面」があり、「ゴールの場面」があるとします。この一つ一つの場面をどう並べるかが構成です。
構成について詳しく知りたい人はこちらに詳しく書いていますので、参考にしてみてください。→構成の意味とは?物語作り/話し方/プレゼンにも【例あり】
演繹法的な構成
演繹法的な構成の仕方だと、「出発」→「旅の途中」→「ゴール」となります。時系列に沿って、何かが起こった、その結果何かが起こった、そして何かが起こったというように、転がるようにストーリーを展開させます。
帰納法的な構成
逆に帰納法的には
「ゴール」→「出発」→「旅の途中」
ということになります。結果を先に見せるのです。
この方法が有効な場合は主に2つあります。
1つは「ゴール」が非常に印象的なときです。「ゴール」が印象的だったとき、そこに至った過程を読者は知りたくなります。
例えば古典的ですが最初のシーンが「世界中に自分以外にいきている人間はいなかった」から始まる物語があります。さいとうたかをの『サバイバル』でありウィルスミスの『アイアムアレジェンド』などいくらでも例が挙げられます。
なぜそんな世界になってしまったのか、本当に主人公1人しか生きていないのか・・・・・・読者は思わず物語の先を知りたくなってしまいます。
サスペンスもある意味同じ構成で時系列は「正」(時系列に沿って進む)なのですが、冒頭に殺人が起こりその原因を追っていくため、帰納法的です。
もう一つ有効なのは、ストーリーを時系列で見たときに最初があまり面白くない場合です。例えば、「平凡な主人公が旅に出る」から始まるストーリーです。そのあとには壮大な冒険や世界の謎、主人公出生の秘密が待っているのですが、読者はそこまで我慢してついてきてくれるかというと、そう簡単ではありません。読者はページを閉じるという必殺技を持っていますから、退屈ならば、読んでもらえなくなってしまうのです。
このような場合は、印象的な後の場面を先に提示することで、興味をもって物語を読み進めてもらうことができます。
まとめ
本来の演繹法・帰納法はなかなか難しい概念でした。ストーリー版演繹法・帰納法は、発想法と、構成法として使えるものでした。ストーリー作りに行き詰ったとき、構成に迷った時には思い出してみてください。頭が整理されますよ。