「伏線」と「布石」の違いはこう考える
伏線と布石の違いを明確に答えられますか?
「あのサスペンスは伏線の回収がすごくて~」
「伏線回収しないでなげっぱなしなんだよね。」
とか
「今度のイベントための布石を打っておいた。」
「あれは布石だったのか。」
なんとなく、両方とも過去のことが未来に影響するようなイメージですよね。
布石と伏線は別物
辞書などで調べると、
伏線:後で起こる出来事をほのめかすこと
布石:将来に対する備え
みたいな内容が出てきます。
どちらも、「未来に対して、いまちょっとやっとく」みたいな感じに見えますね。
違う気もするけど、同じような気もする、何が違うの?
・・・・・・考えれば考えるほど混乱してきます。
はっきり言いましょう。全然違います!
特に物語を作ったりする人にとっては全くの別物です。
では、何がどう違うのか、見ていきましょう。
伏線は物語の用語で、布石は物語の用語ではない
そもそも伏線は、脚本や小説、漫画、映画、戯曲など、物語用の用語です。
伏線は物語の先の展開のために事前に入れておくシーンのことになります。
後で詳しく説明しますが、
まずは「物語用の専門用語」だということだけ
理解していただければ大丈夫です。
一方、布石はもともとは囲碁の用語です。
囲碁の序盤戦に、今後の戦いを有利にするため、
自分の勢力圏を確保するために置く石のことを布石というのです。
この布石は置いた時点では直接勝敗を分けるものではありません。
ただ、後々戦いが進展してくると効いてくるのです。
これが転じて、将来のために備える、という意味として定着しました。
今使う訳じゃないけど、将来のために英語を勉強しておこう。
資格を取っておこう。保険に入っておこう。
受験のために、直接は関係ないけど、体力づくりをしておこう。
ということを、布石を打つといいます。
「打つ」というのは囲碁の石を置くことを打つといいますので、「布石を打つ」といいますね。
(「敷く」とか、「置く」とかいう言い方もあり、どれが正しいかは微妙なところですが。)
まとめると、生活の中で、
今すぐ生きてくるわけではないけど、後々生きてくることを今する
というのが布石を打つということになります。
例をあげてみましょう。
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A:B君、ジャガイモ好き?
B:好きだよ。なんで?
A:なんでもないよ。
A:B君、ジャガイモをトラック一台分もらったの。もらってくれるよね?置き場所に困って
B:えっ?!
A:ジャガイモ好きって言ったよね!?
B:(さっきの話はこのための布石だったのか!)
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この場合、前段のAの発言が布石になります。
Aが布石を打った(敷いた)といいますね。
よく使われる「今日時間ある?トラップ」も同じことです。「時間ある」と答えてしまえば、あとは何が待っていても受け入れなければいけないあれです。
注目して頂きたいのは、
物語の中に「布石」というセリフが出てきていることです。
物語を俯瞰した構造の話ではなく、
日常会話の中で「布石」を使っているシーンを
書き出しているだけです。
伏線は読者・視聴者目線
一方、伏線は、物語用の用語です。
基本的には日常生活には使いません。
伏線について、もう少し説明しましょう。
物事には因果(原因と結果)があります。
伏線はこの因が隠れていて、
結果が表現され、後であれが因だったのだとわかることです。
例えば、
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Aが自転車を盗まれた。
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これは果(結果)です。
これに伏線を入れると、
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1、最近、この辺で自転車泥棒がいるようで何人か
が被害にあっている。という話を町の人がしている。
2、Aが自転車を盗まれた。
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ということになります。
因(原因)は、自転車泥棒がいるということですが、
「噂話」という形式をとることで、「隠す」れています。
ちなみに隠れていていないとどうなるかというと、
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1、自転車泥棒が近づいてきた。
2、Aが自転車を盗まれた。
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これが普通の因果(原因と結果)ですね。
伏線は隠れていることが必須です。
隠れていなくてはいけないのです。
(かといってあとになってもそれと気づかないほどに隠してはいけませんが。)
隠れるというのは、
「他の物語上の目的を持たせる」ことです。
上記の例の場合は噂話という形をとっています。
街の様子、舞台設定を噂の形で読者に知らせるという目的を持たせてあります。
直接、自転車泥棒の原因であるように表現されているわけではありません。
これが伏線です。
辞書的な、「あとの展開のためにほのめかすこと」、
という感覚が理解できたのではないでしょうか。
理解を深めるために、もう一例、先ほどのジャガイモの例を載せましょう。
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ジャガイモを積んだトラックが停まっている。
B:すごいジャガイモだな~。
A:物好きもいるものね。
A:B君、さっきのジャガイモ私宛だったみたい。困っちゃって・・・・・・もらってくれる・・・・・・?
B:え・・・・・・いや俺も困るけど!!
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前段が伏線ですね。
注目していただきたいのは、2点です。
1、会話の中には「伏線」という言葉や要素は出てきていない
2、単に世間話という体で出てきている。(隠れている)
伏線は物語の構造の用語なので、
「あのジャガイモは伏線だったのか!」と登場人物は言いません。
「あのジャガイモは伏線だったのか!」と言うのは読者です。
このような話の構成のことを指します。
物語の用語としての布石を打つ
さて、また布石にもどりますが、
碁から日常用語に転じたのは上記のとおりですが、
さらに、転じて、物語の用語として混同されてしまっています。
ここまで読んできた方は、物語の構成として「布石」という言葉を使うのは
間違っていないまでも、意図した意味からちょっとずれていると感じませんか?
おそらく使っている方は「伏線」と言いたいのだけど「布石」と言ってしまう
というような状況が想像できます。
布石はそもそも隠れていませんし、
「後々効いてくる」という要素は確かに共通しておりますので、混同してしまうのも無理はないかもしれません。
布石は隠れていない
布石は登場人物目線
伏線は隠れている
伏線は読者目線
と覚えれば簡単ですね。
物語を作るストーリーメイカーにとって重要なのは
用語ではなくストーリーの中身ですが、
正しい用語理解で正しく物語に活用したいですよね。
もう少し理解を深めたいた人に
さて、伏線と布石の違いがわかったら、もう少し理解を深めましょう。
伏線を効果的に使うには構成もしておく必要があります。こちらもおすすめです。