コマ割りとは漫画におけるページの割り方です。コマ割りと一言で言っても、絵柄と同じくらい重要で、作家性が出るなかなか奥が深いものです。ここではその基本から、応用への入り口位を解説していきたいと思います。
この記事の目次
そもそもコマ割りってなに?効果は?
そもそもコマ割りとは、ページを縦・横・斜めなどで区切って区切られた部分を1シーンととらえる漫画独特の手法です。漫画と同じくテキストと絵でできていて、コマが割っていないのが絵本です。絵本は1ページが1シーンになっていますね。複数のシーンをわかりやすく、また効率よく1ページの中に表現したのがコマ割りと言えるでしょう。
コマ割りには暗黙の了解があり、最低限守らないといけないルールがあります。漫画や本はページを開いて右上から左下に読みますね。誰から教えられたわけでもありませんが、暗黙の了解になっています。同じように、コマの割方にも暗黙の了解があるのです。これについても、説明していきましょう。
それから、コマ割りは単に物理的なページの割り方だけの話ではありません。シーンをどこで区切るか、という視点が最も大事になります。これも後から詳しく説明しますが、このような会話があったとします。
A「あなたが好きです。」
B「私はきらい!」
これをコマにすると何コマになるでしょうか。2コマかな?と思った人が多いと思います。答えは・・・1コマにもできるし、3コマ以上にもできる。2コマでももちろん良い。ということになります。どのように割るかによって、どのような印象を与えるか変わってきます。漫画表現のオリジナリティであり、肝となる部分です。良く理解して活用すれば、大きな力になりますよ!
単ページのコマ割り
まずは基本的な、暗黙のルールとなっているコマの割り方を見ていきましょう。漫画は最近はWEBでも見る機会が多いと思いますが、基本は紙の漫画で進化してきた方法論が基礎になっていますので、それに基づいて説明していきましょう。まずは1ページの用紙をどのように割るかについてです。
割り方には縦と横があり、少し役割が違います。縦の割方より、横の割方のほうが効果が強い、と覚えておきましょう。
なぜ横の割り方の方が強いかと言いますと、読者の目線の移動がそのようになっているからです。読者は右上から左下に向かって読んでいきます。目線は右から左に進んで、進めなくなったところで下の段に移ります。
ですので、段を分ける横の割方が第一にあります。プロの原稿をよく見ると、縦のラインと横のラインの太さが違うに気付きます。横割りの方が太いのです。このことも横が強いことを証明しています。
横に割る
横に割るとはこうです。4段くらいが限界です。
縦に割る
横に割った後に、縦で割ります。
縦の方が線も細く、心理的にもコマとコマの間が近いイメージがあります。
縦には3列くらいが限界です。4列だとかなり狭いコマになります。1ページ当たり、縦と横を割って通常5コマ前後、最大8コマくらいが限界です。
ということで横割りが第一、縦割りが第二と考えてください。
斜めに割る
コマは斜めに割ることもできます。斜めに割ることでスピード感が出ます。縦を斜めにするときは横はまっすぐ、横を斜めにするときは縦をまっすぐにすると見やすいです。縦も横も斜めにするのももちろん可能ですが、ここまでやると少し見にくくなります。ただ、使い道がないかというとそうではなく動作やセリフが入り乱れている感じを出すにはいいので、要は使いようです。
コマ割りの最大のポイント
コマ割りは漫画独特のものです。映画も紙芝居も舞台もTVも画面の大きさはいつも一緒です。コマ割りの特性は漫画の武器です。たった1つのことを覚えておけば基礎は理解できます。
大昔はの漫画は下図のように割っていました。これが徐々に変形して今の形になってきたのです。何故コマの大きさを変えるようになったと思いますか?大きいコマはそれだけ印象が強くなります。それを生かして重要度によって大きさを変えるようになったのです。
『重要なコマは大きく』これを身に着けて、この効果を最大限に生かしてください。
裁ち落とし
純粋にコマ割りの話ではなく、原稿の書き方の話ですが、『裁ち落とし』も覚えておいて損はないでしょう。プロの漫画を見ると、ページのぎりぎりまで絵がかいてあるものがあります。これを裁ち落としと言います。裁ち落としとは印刷の用語で、本来は文字通り、断って(切って)落としてしまう(捨てる)という作業のことを指します。漫画の場合はぎりぎりまで描いてあることをこのように言います。裁ち落としは絵が大きく描けてけて迫力が出るのがいいところです。実際に原稿に描いていてみるとわかりますが、結構大きくなります。裁ち落としをあまり使わないと昔ながらの昭和的な表現になってきます。そちらの方が好きという人は意識してやってみるのもいいかもしれません。
ついでに、原稿を作るときの諸注意も書いておきましょう。本を見たときに左右のページの境目になっている部分をノドと言います。ノドには絵もセリフも書いてはだめです。ダメというか、見えなくなりますので、書いても無意味になります。それから、裁ち落としの時に吹き出しもページぎりぎりまで広げてもいいのですが、セリフだけは普通の範囲におさめないといけません。そのほうが見やすいからです。
見開きのページのコマ割り
見開きとはページを開いた2ページのことです。本の漫画を開いたときの状態です。通常は右のページは右で独立し、左は左だけで独立していますが、重要なシーンなどで、この2ページを1つのページとしてコマを割る時があります。このときの割方を説明しましょう。
単ページの場合は横が重要でしたが、この場合は縦が重要になります。順番としては第一に大きな縦割り、第二に横割り、第三に小さな縦割りです。
第一の大きな縦割りは、ページをどこで分割するかを決めます。
通常は1ページ目と2ページ目の間が境目になりますが、見開きの場合は1ページ目と2ページ目がつながっていますので、どこで分割するかを決めることができます。
それからは単ページの時と同じです。
縦で割った部分を1ページに見立てて、あとは単ページと同じように横に割り、縦に割っていきます。
どこからどこまでを一コマに入れるか
ここまではコマを割る基本的な技術の話です。コマは割ったら終わりではありません。ここに絵が入り、セリフが入ります。冒頭でも書きましたが、シーンをどこで区切るか、つまり1コマにどこまでを入れるかを意識することがとても大切です。ここで、冒頭の例をもってきて解説していきましょう。
例)男の子と女の子が「あなたが好きです」「私はきらいです」というやり取り
A「あなたが好きです。」
B「私はきらい!」
これをコマで割ってみましょう。
1、1コマ
あっさりした印象です。
2、2コマで割る
スタンダードな割り方です。二人の表情も大きく入れられますし可もなく不可もなく。
3、3コマで割る
間に無言のコマを入れました。すると、途端に最後のコマが印象的になります。間のようなものが現れてきているのがわかりますでしょうか。
コマには絵とセリフが入りますが、無言のコマは間を作ることができるのです。映像でもないのに間を作ることができる、これによっていろいろな作家は独自の間を作っているのです。これは効果大なので、絶対に取り入れるべきです。どこに入れるか最初は迷うと思います。一番簡単なのは『重要なコマの前にいれる』ことです。むしろ、間の後に来たコマの印象が強くなる、と言ってもいいかもしれません。下記の例では「私はきらい」がかなり強調されているように見えるのではないでしょうか。
間がある方が独特の感じが出ますね。この間の使い方は作家性が非常に出ます。ぜひ自分の間を作ってください。
4、2回以上のやりとりを1コマに
スピード感をさらに増すこともできます。突っ込みをしたりする場面に使われます。それから、セリフのやり取りが長く、表情や心情に変化も少なくいような場面が変わる必要がない場合もこの方法を使います。
例はセリフのやり取りでしたが、アクションでも何でも同じく考えることができます。例えば「一方がパンチを繰り出し、一方にヒットする」を言うような場面は、1コマでも表現できますし、2コマでも、3コマでも、数回のパンチを1コマに入れることもできます。基準は何が重要で何を見せたいかでです。それによりコマの数をいくつにするかを考えることになります。さらに、アングルに変化を出したり、コマの大きさを変えたり、集中船や効果音を入れたりと、無限の選択肢があります。漫画って大変。
1、アップを活用した例
2、コマの大きさにメリハリをつけた例
3、コマにメリハリをつけ効果を追加
具体例
最後に実際のコマ割りの思考錯誤を見てみましょう。コマ割りは「ネーム」という漫画の製作段階でつくられます。漫画は話をネーム→下書き→ペン入れ(清書)の順番で作られます。ネームは漫画の設計図とも呼ばれ、漫画の面白さを8割がた決める最も重要なものです。ネームは何度も書き直して試行錯誤するため、ラフな絵で描かれます。ネームについて詳しくはこちらをご確認いただきつつ、さっそく見てみましょう。
まずは完成したネームを見てください。理解しやすいように、若干書き込んでいます。
実際のネームはこのようなものです。人によりますが、このくらいのラフさで描いて、何度も書き直すのです。
さて、このネームにたどりつくまでに、いくつかの思考錯誤をしましたので見てみてください。
①「犯人は」「この中に」「いない」を分割し、コマを割って表現
②「犯人はこの中にいない」を1コマに表現し、主人公以外の反応をたっぷりと見せる
それぞれ、読み味が違うのがお分かりいただけたかと思います。最終的にどのコマ割りを選ぶかは、作者が何を読者に見せたいかによります。主人公をかっこよく見せたいなら最初のネーム、主人公以外の反応を見せたいなら最後のネームですね。
このように、ネームで読者のテンポを確認しながらコマ割りを完成させていくのです。1ページのたったこれだけのやり取りでも無限の割方があり、1つ1つ選択してゆきます。
守破離の気持ちで
このように実に奥が深いコマ割りの世界。漫画というメディアが誕生してから、何十年もの時間をかけて、多くの偉大な先生方が作り上げてきた独特の文化です。漫画のオリジナリティであり、漫画そのものとも言えます。上手く習得して、面白い漫画を描いてくださいね。
折しも、いま紙の漫画よりもネットの漫画の勢いが高まってきている中で、コマ割りの方法もいろいろと変化していくことだろうと思います。漫画は伝統芸能ではありませんので、昔ながらの手法でよいものは取り入れて、新しいものも取り入れ新しい形ができてくるのたと思います。ぜひ守破離という考え方も取り入れていくとよいと思います。守破離、という急に難しそうな言葉を出しましたが、内容はそれほど難しくありません。守破離とは日本で昔から使われている、技術の習得に関する考え方です。
1、守は型を守ることです。先人が築いた内容をそのままに学ぶことです。古臭いと感じたり退屈に感じるかもしれませんが、長い歴史の中で出来上がった知恵をまず吸収することです。
2、破はその基礎にアレンジを加えることです。型を完全にものにした後、独自のやり方を導入していくことです。
3、離は基礎から離れ、独自の作風を確立していくことです。
この三段階を経て、ようやく技が完成します。まずは基本を覚えて、そのあとは自分の技を磨いていってください。漫画の明日を作るのはあなたたちです!※ちなみに守破離について詳しくはこちらでも解説していますから参考にしてみてくださいね。