「シーン」という言葉は「映画のワンシーンのようだ」「ラストシーンが感動的」などというように使われます。何となく意味は分かるけど、正確に説明できる人は多くはないかもしれません。
シーンには、辞書的には3つの意味があります。ここでは、3つのシーンを紹介しつつ、最もよく使われるストーリーや映像の用語としてのシーンについて解説します。それから、作り手側のためのシーンの理解の方法を説明します。
この記事の目次
一応、辞書的な3つのシーンをおさらい
シーンという言葉には、3つの意味があります。
1、ある分野の流れのこと。「音楽シーン」などという言い方がこれに当たります。
【例文】彼らのブリティッシュなスタイルは今の音楽シーンでは珍しい。
2、情景、景色のこと。
【例文】落日のシーンに心打たれた。
不動産のコピーで「光景(シーン)となる象徴(シンボル)」という壮大なものがありますが(あまりに壮大なので不動産ポエムと揶揄されます。)2の光景=景色としてのシーンと、1のある分野の流れとしてのシーンをかけているんでしょうね。景色そのものでもあり、俺らが業界の流れを作ってるんだ的な感じでしょう。壮大。
そして、3つ目は物語や、映像に関係するシーンです。この使い方が一番流通量が多いのではないでしょうか。
3、映画や小説などの一場面。
【例文】あのラストシーンで驚かない者はいない。
辞書ではこのように説明されますが、これでは少しあいまいです。もう少し正確に説明してきましょう。
物語のシーン
シーンとは「場面」のことです。通常このように説明されます。これではベースボールとは野球ですというのと同じです。
正しい説明はこうです。
シーンとは物語の中で、場所と時間が同一の一区切り。
この「場所と時間が同一」というのがポイントです。
具体的に見たほうが理解しやすいかもしれません。例を見てみましょう。
どこがシーンの区切りなのか、わかりますか?
Aは自宅のベッドの上で目覚めた。
それからコンビニに行った。
パンと牛乳を買って、家に帰った。
これをシーンで分けると、このようになります。同一の場所・時間で区切ってみましょう。
シーン1:自宅
Aは自宅のベッドの上で目覚めた。
シーン2:コンビニ
それからコンビニに行った。
シーン3:自宅
パンと牛乳を買って、家に帰った。
それぞれのシーンは時間と場所が違いますね。この例は非常に簡素ですので、もう少し複雑な例を見ておきましょう。
Aは保健室のベッドの上で目覚めた。
徐々に、先ほど起こったことを思い出した。
Aは学校で廊下を走っていた。
「廊下を走るな!」Aは先生に叱られた。
先生の声に気を取られ気づくと目の前にBが立っていた。
シーン1:現在の保健室
Aは保健室のベッドの上で目覚めた。
徐々に、先ほど起こったことを思い出した。
シーン2:過去の廊下
Aは学校で廊下を走っていた。
「廊下を走るな!」Aは先生に叱られた。
先生の声に気を取られ気づくと目の前にBが立っていた。
シーン1とシーン2では時間も明確に違いますね。
映像・舞台の分野ではシーンが大事
映像の分野では特にシーンが大事です。シーンごとに考えたほうが撮影するのに都合がよいのです。
映像は、河原で撮影して、学校で撮影して、森の中で撮影して、と撮影場所に機材を運んでセッティングをして撮影します。なので「場所」で区切ってある「シーン」の概念が大事なのです。
ちなみに映像の場合はさらに、シーンを「カット」で細分化します。登場人物のアングルが変わったり、被写体が変わったりする部分で分割するのです。(正確には区切りそのものをカット、カットされたひとまとまりをショットというようです)
先ほどの例でいうと
シーン2:廊下
Aは学校で廊下を走っていた。
「廊下を走るな!」Aは先生に叱られた。
先生の声に気を取られ気づくと目の前にBが立っていた。
↓
シーン2 カット1
Aは学校で廊下を走っていた。
シーン2 カット2
「廊下を走るな!」Aは先生に叱られた。
シーン3 カット3
先生の声に気を取られ気づくと目の前にBが立っていた。
といったように分けたりします。この「分け方」は人によって異なり、そこが映像の個性になります。ちなみにカットを割るのは監督の仕事で、脚本家はシーンまでになります。
舞台では「カット」の概念はありませんね。でも、舞台の場合もシーンで背景を変えたり、登場人物を変えたりしますので、シーンの考え方は大事な概念です。
小説や漫画では場所と時間の制約が比較的少ないので、シーンについてはそこまで考えている人はいないかもしれません。でも、シーンをコントロールすると、考え方をシンプルにし、作品の質を上げることができます。続いてその点についてお話しましょう。
作り手のためのシーンの考え方
物語はシーンの連続です。いろいろなシーンが積み重なって、ストーリーになります。
これは漫画でも、小説でも、映像でも、どのようなメディアであっても同じです。
楽しむ側であれば、何も考える必要はありませんが、あなたが作り手であれば「シーンの目的」を考える必要があります。
例えば、
Aが雨に濡れた子猫を拾って、連れてゆく
このようなシーンがあったとしましょう。このシーンの目的はなんでしょう?
Aのやさしさを表現=Aのキャラクターを表現することです。
さらに、この猫がキーとなるような物語の場合は「物語のキーが登場する」という目的があります。
このようにシーンには目的があります。もし、あなたの作品で目的がないシーンがあったとしたら、それは不要なものです。不要なシーンは、読者や視聴者を退屈させてしまいますので、削除する必要がありますね。読者は無意識にそのシーンにどんな意味があるのかを考えながら見ているのです。
ちなみに、物語を進めていくうえで、絶対に必要な目的がいくつかあります。これについては、こちらで詳しく解説していますので見てみてくださいね。それから目的をうまく活用する伏線の貼り方についても書いていますので参考にしてみてください。
さて、シーンに目的を持たせたら、次は「構成」です。
シーンの並べ方
シーンの並べ方を構成といいます。時系列で並べるのを基本として、いろいろな並べ方があります。時系列では最期になるシーンを最初に持ってきたり、わざと複雑な並べ方にして、あとで並べ方の意味が分かるというようなトリッキーな使い方もあります。
どんな構成にするかは、あなたが作成している物語の特性から考えると良いでしょう。時系列に進むと退屈な場合は、先に派手なシーンを持ってくると良いでしょう。例えば、400年前に植えられた木がキーポイントになる物語があったとします。400年前に木を植えるシーンから始まるのは退屈かもしれません。先に成長した大きな木を見せて、実はこの木は・・・・・・とやった方が良いかもしれません。
慣れるまでは、時系列で物語を考えて、後から構成を考えましょう。
まとめ
シーンは物語を構成する単位でした。そして目的があり、並べ替えてもいいものでした。「ブロック」をイメージしてみましょう。それぞれのブロックに何らかの意味があり、並べ替えることで、全体の印象も変わってくるのです。ぜひシーンにも注目して物語を作ってみましょう。