序破急ってなんでしょう?聞き慣れないこの言葉、なんとなく、お話の構成のことかな?といういう程度のイメージがあるのではないでしょうか?調べてみても中々わかりにくい序破急の本来の意味と、現在使われている意味、そして、このサイトの本題、ストーリー作りどう役立てるかについて説明していきます。
この記事の目次
序破急のもともとの意味
本来は『雅楽』の用語です。雅楽は『ががく』と読みます。音楽の教科書や、もしかしたら社会の教科書で見たことがあるかもしれませんね。雅楽は日本の宮廷音楽です。
日本には上代から神楽かぐら歌・大和歌・久米くめ歌などがあり,これに伴う簡素な舞もありましたが,5世紀頃から古代アジア大陸諸国の音楽と舞が仏教文化の渡来と前後して中国や朝鮮半島から日本に伝わってきました。雅楽は,これらが融合してできた芸術で,ほぼ10世紀に完成し,皇室の保護の下に伝承されて来たものです。
出典:宮内庁ホームページ
このように、雅楽はアジアの古い音楽が日本にやってきたもので、いまから1000年以上前に完成し、日本の宮廷音楽として演奏されてきた音楽です。歌ではなく演奏される音楽としては世界最古とも言われいます。和製オーケストラ、と言えばイメージがつきやすいかもしれません。神前式の結婚式に出たことがある人は、その時演奏された音楽を思い出してみてください。あれが雅楽です。
使われる楽器は多数あるのですが、ひちりき(正式にはしちりきではないようです。)琵琶、琴など、太鼓などが有名です。これらの名前を聞けばなんとなく音がイメージできるのではないでしょうか。
ところで、音楽には構成があります。最初はゆったり始まって、途中に盛り上がってしっとり終わる、とか、最初からアップテンポで始まってどんどん盛り上がり、最後まで走り抜けるとか、オーケストラでもロックでも歌謡曲でも、このような構成があります。雅楽も音楽ですから、当然構成があります。雅楽における構成のお手本、それが序破急です。序はゆっくり、破は序より少し早くなり、急は最も早くなる。そのような構成になっている雅楽が理想的である、という考え方なのです。
序破急は他の分野にも浸透している
意味が分かってしまうと何だそんなことかと思うかもしれませんが、単純だからこそ意外と奥が深く、長い歴史の中で様々な場面に転用されてゆきます。
たとえば武道です。相手を殴る、という動作を考えたときに、0%の状態から一気に100%の力を発揮してこぶしが到達するわけですが、いきなり0→100にしようと思うと筋肉がスムーズに動かず、うまくいきません。そこで、筋肉をリラックスさせて、徐々に力を加えて行き、最後に最大の力を出す、というイメージがなされることがあります。もちろん武道ですから、一連の動きをゆっくりやっていては先に攻撃を受けてしまいます。この間は一瞬です。
言うまでもなく、リラックス、力の出し始め、発力が序、破、急に対応しています。このような考え方は、武道だけでなく、茶道・香道・剣道など、日本の「道」においても広く採用されています。日本人の動作のリズムになじんでいるためかもしれませんね。
物語の構成としての序破急と似た概念
以上のように、雅楽の構成の理想が序破急の本来の意味です。現代ではどうでしょうか。時代が移り、いろいろな分野にこの考え方が応用、浸透するとともに、徐々に本来の意味から離れてゆき、現代では物語の3部構成を指すようになりました。それは、物語を3つに分けると、導入があり、途中があり、クライマックスがある、といったような考え方です。その意味で4部構成である起承転結と近い考え方です。起承転結の意味を理解すると、ほぼ同じものだとわかるでしょう。その辺について詳しくはこちらで。
同じ3部つながりで、ハリウッドの3幕構成とも関連して語られることも多いですが、ハリウッド版はシド・フィールドというアメリカ・ハリウッドの脚本の神様のような人が確立した理論で、全く違うものです。
では序破急の特徴は何かと言いますと、本来の意味であるリズム、これに尽きると思います。漢字は一文字で様々なイメージを内包する優れた記号です。序破急の漢字を改めて考えてみることで、その真髄を理解することができます。
序破急を物語に活用する方法
序は、そのまま物事の始まりといった意味をもっています。まさに物語の冒頭にふさわしい意味です。他にも「秩序」や「順序」といった使い方もあり、こちらは規則やルール、安定を示しています。物語に置き換えると、日常・平静から始まり、このようなルールの世界が舞台だ、というイメージです。
破は「破壊」「破る」という文字通りこわすという意味を持っています。序で示された秩序を破ります。
急は「急行」「急激」「至急」など、物事の展開が早いことを示します。破で壊された秩序が急激に展開する、ということを示しています。また、「急所」という言葉が示すように、ここが物語のクライマックスであり、肝ということなのです。
実際に物語を作るときには、冒頭に急激な展開を配置して「引き」(続きを読みたくなるようにする工夫)を作る場合がありますが、そのあとは比較的スピードをダウンして展開することが多いですね。あまりに急激すぎると読者・視聴者がついてこれなくなりますので、序の考え方は理にかなっています。(もちろん、遅すぎても離れてしまいます。ついてこれるぎりぎりのスピードを狙う必要があります。)また、冒頭の安定した状態を一気に崩す事件を起こすこともまた、物語の重要な場面です。そして、その流れを止めずに一気に駆け抜け、事件解決をし、最後に一番盛り上がって終わる、想像しただけで理想的な物語です。
長い物語の場合は、序破急を積み重ねればいくらでも長くすることができますし、全体としても序破急を意識することで、まとまりを作ることもできます。もっと細かく、シーンごとに序破急を適用することもできますね。
序破急を心に物語を作る
このように序破急は、言葉にしてしまえば簡単なことなのですが、奥が深く、あいまいで東洋的で精神的です。数学の公式のように、冒頭はこれ、次はこれ、と機械的に当てはめてうまくゆく考え方ではありません。ただ、物語のリズムの理想として、常に意識して物語を作ることで、良いものが生まれやすくなるとは思います。序破急を活用して、良い物語を作りましょう。