イマジナリーライン(想定線)って何?漫画に活用できるの?
イマジナリーラインとは何でしょう。この聞き慣れない用語、最近漫画界隈でも話題になることがあります。
ここでは用語の説明と、どのように取り入れたらいいかについてお話していきましょう。
イマジナリーラインとは
これは映画の用語で「登場人物同士を結んだ線」や「進行方向の線」のことを言います。日本語では想定線(そうていせん)と言います。名前は仰々しいですが、理解してしまえばそんなに難しい内容ではありません。たとえばこのような映像があったとします。普通の感覚で見れば、ああ、この車は左に進んでいて目的地はそっちなんだなと直感します。
それが、次の瞬間にこのようなシーンになったとします。
すると見ている人は混乱します。さっきは左に向かっていたのに、この車どこに向かっているんだ、戻っているの?と。
この場合イマジナリーラインは進行方向の線を指します。図にするとこのようになっています。
車は上の図のように走っているとしたとき、「右には知っていく車」「左に走っていく車」を撮影するにはどうしたらよいでしょう?
答えはカメラの位置です。カメラの位置によって、同じ車を映しても異なる方向に進む映像が撮れます。図にしてみると下のようになります。
イマジナリーラインを挟んで反対から撮ることによって、進行方向が全くの逆になってしまいます。何か特別な意図があって逆に進ませる場合以外は、同じ方向に進んでいる方が混乱しませんね。このような考え方をイマジナリーラインと言って、カメラはイマジナリーラインを越えてはいけない、という風に言われます。これを守ると見ている人がすんなりと映像を理解することができますよ、という法則です。
もう一つ見てみましょう。今度は2人の人物の会話です。まず、二人の立ち位置は、こうなっております。
漫画原稿の流れは右から左なので、↓はまず女の子がしゃべって、そのあと男がしゃべるというコマです。これがイマジナリーラインを越えていない状態。カメラはイマジナリーラインの手前にあります。
今度は越えてみましょう。
直観的におかしいと思うはずです。向き合っているはずなのに、同じ方向を向いて立っているかのようなイメージになってしまっています。カメラの位置を間違えるとこのようになります。
このように、イマジナリーラインを越えてはいけないという法則を守っていれば見ている人が混乱することのない、スムーズはシーンを作り出すことができます。もちろん例外はあり、特殊な効果を出すためにイマジナリーラインを越える場合もあります。その場合はカメラごと移動するか、カットを割って間に他のカットをいれるなどの工夫が必要です。
漫画にイマジナリーラインは使えるか
さて、これを漫画に置き換えるとどうでしょう。漫画は映像で言えばカット割りされているメディアですので、色々なカメラアングルが登場します。そのままイマジナリーラインの考え方を置き換えることができるのでしょうか。実際に例を見てみましょう。
先ほどの会話の例のように、漫画であっても、↓のようなコマ割りはしませんね。誰と話しているのかよくわからなくなります。
この程度の内容の時はイマジナリーラインの考え方は有効だと思えます。
もう少し動きのあるシーンの時はどうでしょうか。
このコマでわざとイマジナリーラインを越えてみましょう。すると↓のようになります。
2コマ目を反転しただけなので手が逆になってしまっていますが、そこを大目に見るとしても不自然な気がしますね。
ここでもイマジナリーラインは有効なようです。
しかし、この2コマの前には実は会話のコマがあります。前に出した例のコマです。
普通の漫画のコマ運びですが、1、2コマ目と3、4コマ目の間でイマジナリーラインを越えてしまっています。
これはいかん!ということでをイマジナリーラインの考え方に従ってみると↓のようになります。
立ち位置的には確かにわかりやすいのですが、なんだかちょっとインパクトに欠ける気がしますね。(反転しただけですので字が逆なのは無視してください。)
漫画の場合はイマジナリーラインのほかに、コマの中での時間の経過も考える必要があります。映像は動いているので時間の経過を考える必要はないのですが、漫画は止まっていますので、考える必要があるのです。漫画の目線は右から左に流れますので、コマの中は右から左に時間が流れていると考えると自然です。せっかくなのでタイムラインとでもしておきましょう。
先に男が殴りかかって、女の子が受けているからこの配置になると考えます。なんだかうまく理解できそうです!
と思ったら、その次のコマは逆の流れです。あれ?タイムラインとは逆だ・・・
今度はタイムラインに従ってみましょう。そうすると先ほどのイマジナリーラインを越えた例になります。
だんだんどれが正解か私もわからなくなってきました。どれもよいところもあるし、悪いところもある、というのが正直なところです。イマジナリーラインも、タイムラインもどちらも気にしすぎることはなく、目安としてとらえて活用したほうがいいと思います。分析軸や考え方の基礎にはなるので、覚えておいて全く損はないと思います。
イマジナリーラインは参考程度に活用すべし!
ということで結論を言いますと、イマジナリーラインは漫画にとっては参考にはなるけど、万能ではありません。タイムラインも同じです。それだけを守っていたのではでは成立しません。
そもそもイマジナリーラインは見ている人が混乱しないように発明された概念です。見ている人が混乱すると、せっかくの内容や映像が頭に入ってきません。この点は漫画も同じです。読者にキャラクターの位置関係なり時間の経過がわからないと混乱します。せっかく考えた内容がうまく伝わらないことは大きな損失です。漫画を作成するときも、読者が混乱しないようにすることも内容と同じくらい重要です。イマジナリーラインは映像の人たちが、そのことを漫画の人に教えてくれる概念なのです!ありがとう映像の人!